湯治柳屋

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お伊勢参りとおかげ横丁

お伊勢参りとおかげ横丁

 

 三年前の遷宮の年、サリーのスタッフで伊勢神宮のお参りに出かけました。大きな鳥居の前で浴びた朝日の神々しさ、五十鈴川の清々しさ、正装して玉砂利の参道を神殿にすすんだ緊張感とそこでいただいた凛とした気持ち。どれも貴重な体験だったのですが、お参りを無事に終わってホッとして、そぞろ歩いたおかげ横丁のことも忘れられません。

 赤福の座敷でお餅を食べ、立ち飲みカウンターで日本酒を飲み、名物の手こね寿司を食べ・・・おかげ横町の中程には広場があり、そこに置かれたベンチに腰掛けて思い思いに伊勢うどんやコロッケやお団子や串焼きや・・・ほんとに食べ物の記憶ばかりですが、そこで過ごしたひと時が、私にとっても何とも幸せだったので、「また皆んなで旅行をしたいね」と思い出すのは、やっぱり「おかげ横丁」のことなのです。

 

「鉄輪にもおかげ横丁にあったような広場がほしいなぁ」「そんな場所を作りたいなぁ」とそれ以来、ずっと思い続けていました。鉄輪に住む人も、湯治にいらした方も、誰でも気軽に立ち寄れて、ちょっと腰を下ろして一息ついたり、湯けむりを眺めたり、お茶やお酒を飲んだりしながら過ごせる広場です。

 

 その思いをようやく実現する時が来ました。これまで柳屋の駐車場だった場所の土と砂利を鋤き取り、舗装をする工事が始まりました。同時に「ギャラリー」だった「アルテノイエ」を「ケーキとカフェとショップ」に改装し、広場はそのオープンカフェスペースにもなります。銀座通りに面した広場です。

 待ちに待った工事の始まりでしたが、いざ、ミキサー車がやってきた時には、コトの重大さにおののき、「ここまでする必要があったのか?」「本当に誰かに喜んでもらえるのだろうか?」と、ひるみそうになりました。でも、準備期間はあんなに長かったのに、一旦はじまった工事はあれよあれよと進み、もう後戻りはできません。

 

  完成した広場で最初にお茶をしてくださったのは、二人の若い男性でした。おしゃれなお二人のおかげで、鉄輪の路地もとてもかっこよく見えて嬉しくなりました。外でお茶をすることを自然に選ばれたことにも心強くなりました。

 そして今日、広場を使ってくださったのは、重そうなキャリーバーックを引いて歩いてこられた母娘連れのお二人でした。娘さんが広場の向かいにあるお宿を「ここだ!」と見つけて入って行こうとされたのに、お母様はベンチにヘタッと座り込まれたのです。

 「ここまで来ているのに座るの?」と声をかける娘さんに、言葉では何も答えなかったけれど、ホッとした笑顔を向け、息を整えていたお母様。寒さの中、お二人とも頰を紅潮させていましたが、穏やかな心のやり取りがみてとれました。

 ほんのひと時の出来事。気がつけばお二人の姿はもうそこからなくなっていたのですが、「やっぱり広場を作ってよかった」「ここにベンチを置いてよかった」と思える情景でした。

 

 そして、おかげ横丁のような「広場」という最初の志をしっかり持ち続けることも、今日あらためて自分に確認しました。「広場」は「誰に対しても開かれた場所だから広場」なのだと。今日の私は自然にそのことを受け入れることができました。

 作る過程は私の思いを込めた場所なのに、できた途端「皆のものに」になり、そこは私の「預かりもの」になる不思議。

 これからこの広場が、鉄輪を訪れてくださる方々にとって、居心地のいい場所となるよう、どうか一緒に育てていってくださいね。

 

ehko